kanossaのブログ

歴史小説や時代小説を綴ることを中心としたブログです。
簡単に読めるものを書いていきます。最初は、戦国時代
に主君大内義隆を殺害し、厳島の合戦で毛利元就に敗れ
散っていった陶晴賢(五郎→陶隆房→陶晴賢)を主人公
とした「TAKAFUSA」を書きすすめます。

TAKAFUSA その10 陶晴賢 おゆうという娘(二)

まえがき


今は陶晴賢子供時代のお話となっています。兄を失い、また愛犬タキを失うという悲しみも体験しながらも、父・母に厳しくも温かく育まれ・・・また、又二郎・百乃介・与吉などの仲間にもめぐまれ、浜の網元の娘お栄にほのかなあこがれを抱く五郎、泣いたり笑ったり危機に陥ったり・・・多感な少年時代をすごしています。今日は、おゆうの悲しい物語です。


その10(二)


ところが婆様のイネが死に・・・妹、弟が生まれてくると・・・

フネは途端におゆうに冷たくなりだした。


ある時・・・フネはおゆうに一緒に神社に行こうって誘い・・・

「本当?」って、

おゆうも・・それは喜んでついていったのだが・・・


秋の夕暮れ時、

参拝の帰り、勾配のきついことで有名な高い石段を下りようとしたとき・・・

「きゃー」

おゆうは後ろから突き飛ばされ・・・転げ落ちたのである。


腕の骨を折っただけで・・・幸い死にはしなかったものの・・・

落ちた先から見えた、石段の上にたつフネの氷のような顔をおゆうは忘れることができない。


フネは金治には

「おゆうちゃん、本当にそそっかしくて・・・」

などと言っていた。


夜具に入ったフネは、

(ちくしょう!死ななかった。憎い・・・私とは違う女と金治さんの間に

・・・憎い・・・あいつさえいなければ・・・きっと・・・きっと)


おゆうは、フネがいないある時、

父親の金治に、あの時フネに突き飛ばされたかも・・・と伝えてみたが、

「そんなことはあるはずがねえ」と相手にされなかった。

しかし、それ以降、金治はそれとなくおゆうを避けるようになっていった。


おゆうは、父親の金治も自分を守ってくれるとは思えず・・・不安にかられ、

夜になると母親のお徳の温かい肌を思い出し、

「母ちゃん、母ちゃん・・・」と泣いていた。


ある晩のこと・・・


おゆうが布団にくるまっていると、何か物音が聞こえた。


耳を澄ましてみると・・・

「ポタッ、ポタッ」

何か水滴が落ちるような・・・

 

おゆうは薄目をあけて音の方を見てみると・・・

フネが・・・水がしたたりおちる濡れた手拭をもち、

二mくらい向こうに立ち、おゆうを見つめていたのである。


そのフネの目はまるで狐が憑いているようだった。

(どうしよう、殺される!)と全身が総毛立ち恐怖に震えるおゆうだったが・・・


意を決して、

ばっと飛び起き、無言でフネを必死で強く突き飛ばし・・・

部屋を飛び出していったのである。


おゆうは、それきり家に帰らなかった。


おばばは、遠くを見て思い出すかのように、そんな話をし・・・


続けて、

「・・・そして見ず知らずの私と出会い・・・おゆうはこの賑やかな

山口の町で物乞いをしていれば・・・いつか、いつか本当の母ちゃん

に会えるのではないかと思ってるんだよ・・・」


外から、冷たい風がぴゅーっと鳴る音が聞こえてきた。


爺(治右衛門)は、その話を何もいわず、ただじっと聞いていた。

その右目にはうっすら涙が滲んでいた。

 

その三か月後・・・


再び物乞い姿で山口にあらわれた五郎と爺であったが・・・

河原には、おばばの姿は見えなかった。おゆうはいたが、

何かしらフラフラしているように見えた。


五郎は、

「おゆうちゃん・・・おばばは?」と聞くと、


「先月急に風邪をこじらせて・・・死んじゃった」としくしく泣きだした。


そのおゆうも風邪なのか、相当調子が悪いらしく・・・

顔が真っ赤で・・・「ゴホゴホッ」咳き込んでいた。


五郎が額にさわってみると・・・

「ひ、ひどい・・・熱い!」

おゆうは、高熱をだしていた。


その日の晩、おゆうは倒れ・・・意識を失い・・

「母ちゃん、母ちゃん」

と布団の中で、額に汗をにじませ、うわごとを言っていた。


爺と五郎は・・・急いでおゆうを陶の屋敷の離れに運び・・・医師の竜泉をよんだ。

竜泉はおゆうを丹念に診たが・・・


部屋をでて・・・首を横に振り、

「あと三日もてば・・・」


五郎が、

「何とか、何とかならないのですか!」っと竜泉に詰め寄ったが・・・

再び悲しそうに・・・首を横にふった。


爺と五郎は・・・陶の屋敷の人間の手も借り・・・必死でおゆうの母親お徳の行方を探した。

四方八方手をまわしてみたのだが・・・


一日たっても・・・何の情報(しらせ)も得られず・・・


病床のおゆうは・・・どんどん衰弱し、意識を失い、ぐったりしていた。


二日目に、生き別れた娘を探している人間がいるという情報(しらせ)が入り、

すぐに行ってみたのだが・・・


・・・別人だった。


爺や五郎は、期待してだだけに、がっくりしたのだが・・・


その別人の女が

「あのー私と同じように・・・娘を探しているひとが・・・いつも夕刻になると

古熊神社にお参りに・・・」と。


「えっ」ということで、

すぐにそこへ行くと・・・


いた、いたのである。お徳であった。


お徳は人ずてで、娘が失踪したことを聞いたのだが・・・

その後は、とにかくあっちこっち狂ったように娘を探しまわる日々を重ねていた。

お徳の髪はほつれ・・・頬はげっそり痩せていた。


五郎が

「早く、早く、おゆうちゃん死んじゃうー」と半分泣きながら言い・・・

一行は急ぎ、屋敷に戻った。


部屋に入ると

お徳は

「おゆう!」と言い・・・近寄った。


おゆうは、しずかに眠っていた。竜泉も見守っているだけだった。


お徳が・・・おゆうの手をきつく握り・・・


「ごめんね、ごめんね、おゆう、会いたかったよ」

「おゆう、おゆうーー!」

と叫ぶが・・・・反応がない。それを何度も何度も繰り返した。


と、しばらく後に・・・

お徳が「おゆうーー」と突然大声をだした。


五郎は、どうしたのかと思った。


「おゆうが、今、私の手を、手を、にぎったのよーーー」

と、お徳が言ったとき・・・


おゆうの目がゆっくりと開いた。

そして、

「ああ、かあちゃん、かあちゃん・・・」

とつぶやき、目から涙をぽろりとこぼしたのである。


そして・・・再び静かに目を閉じ・・・おゆうは旅立った。


亡くなったおゆうの懐をあらためると・・・


おゆうが、何が書いたくしゃくしゃの紙が出てきた。


開いてみると、

そこには、汚い文字で・・・


「かあちゃん かあちゃん いま どこに


おゆうはかあちゃんのこと まいにち おもてるよ


かあちゃんも おゆうのこと おもってくれてるよね


かあちゃんにあったらね あったらね いっぱいはなすんだ


いっしょに ごはん たべて おんぶも してほしい


 それから


かあちゃん と かあちゃんと いっしょに くっつて


ねるんだ


  かあちゃん あいたい 


あいたいよ       」



お徳の泣き声が、部屋中にひびいていた。



にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
にほんブログ村

アキとフユイメージ映像です。
ぽちっとしていただいたら励みになります。