時代小説「TAKAFUSA」関連 小説の冒頭部分
「初物語」宮部みゆき (新潮文庫)
p59 -白魚の目ー
二月の末、江戸の町に大雪が降った。過ぎたばかりの冬のあいだも、ことのほか雪の多い年だったので、誰もそれに驚かず、また珍しがりもしなかったが、そここで咲く梅の花には迷惑なことだった。・・・・。凍ったように凪いだ川の上に、数えきれないほどの切片が舞い落ちては消えていく。
降り始めの雪はにぎやかだ。下にいる人々が、頭上を見上げては「おや、雪だ」「あら雪だよ」などと声をあげて迎えるので、雪の方も嬉しいのかもしれない。しんしんと音もなくーというふうになるのは、もっとたくさん降りつもってからのことである。
手の甲を空に向けて雪片を受け止め、茂七はひょいと思った。・・・・
ある方から小説の書き出しは難しいですねと言われ、「確かに」と思いました。私の書いている「TAKAFUSA」も一番最初だけは、結構考えました。でも、それ以降は、ごく簡単な「のどかな春の陽ざしの下、朝から城の庭で又二郎と剣術の稽古を行っていた。」のようなものになっています。少しがんばらないと。この宮部みゆきさんの短編の書き出し、やっぱりよく練られていて、さすがですね。
「恋しぐれ」葉室麟 (文春文庫)
p165
蕪村はおもとをはじめてみた時
(雛人形のような顔や)
と思った。
これも、関西弁がポンと出てきて、惹きつけられた一節でした。
「TAKAFUSA」の冒頭は、
五郎がふと障子の外の方で、なにやら動いている気配を感じた。
障子を少し開けて目をやると、塀の上を歩いているものがいる。それも悠遊と。
その堂々たる姿は、何かしら荘厳な感じすらした。
五郎の視線を感じたのか、そいつも動きを止め、五郎の方を見た。
口に一匹のネズミを咥えている猫であった。
かなり大きい。茶色地に黒の縞模様が入っている。
その顔は夜叉のようであり、五郎を見つめる眼は薄汚れたように濁っているのだが、
その中央から発せられる光はすさまじかった。
しばらく、五郎と猫はにらみ合ったままである。
五郎は猫の眼光にしだいに気圧されていく自分を感じた。
負けるもんかと思ったが、猫がだんだん大きくなっていくように感じ、怖くなった。
そして目を逸らした。
すると猫は顔をゆっくりと前に向け、何事もなかったようにまた歩き出した。
猫も夜叉もいい感じのがみつからなかったので、ライオン貼りつけました。
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