kanossaのブログ

歴史小説や時代小説を綴ることを中心としたブログです。
簡単に読めるものを書いていきます。最初は、戦国時代
に主君大内義隆を殺害し、厳島の合戦で毛利元就に敗れ
散っていった陶晴賢(五郎→陶隆房→陶晴賢)を主人公
とした「TAKAFUSA」を書きすすめます。

TAKAFUSA その5 陶晴賢 大内義隆VS臥亀(がき)一族の信天翁(あほうどり)(四)


その夕方こと・・・


陶興房が 「提灯祭りには卜伝殿とお前とでのんびり参るつもりではあったが・・・
義隆様から側で見よという話しがまいった。五郎くれぐれも粗相のないようにな」
「はっ」


桟敷に行くと・・・


大内義隆が五郎に、 「五郎よう来たな・・・久しゅう見んうちに大きゅうなったことよ・・・ 今日は養子になった太郎(のちの大内晴持)も来ておるから、 仲ようしてやってくれ」と言った。
「ははっ」


五郎は、三つ下の太郎の横に座った 陶隆房も塚原卜伝も桟敷に腰を下ろした。


そして、その二時間後・・・祭りも山場にさしかかっていた。


大内義隆の桟敷の真ん前で、提灯を高く高く連ねた大神輿を数十人の男たちが
汗をびっしょりかきながら、ぐるぐる回していた。


その周りでは、竹竿と竹竿の間に紐がかけられ・・・
その紐に沿って花火が仕掛けられ、空中できらびやかに舞っている。


男たちの掛け声が響く中、回る大神輿の提灯、その周りを取り巻く無数の提灯、
それに花火のあかりが・・・・幻想的な世界をつくりだし、みなそれに酔っていた。


その大神輿の中に・・・信天翁が潜んでいた。様々な思いが頭をめぐっていた。
(川の水が満々とあるのは、予想以上だ・・・一人でも川に飛び込めればいいのだが・・・・)


(ちぇ、紙に書いてあったのと違うじゃねえか・・・ 数も、人間の配置も・・・予定より四人も多い・・・何でガキが二人も・・・ そのせいで義隆の奴がすわる位置がずいぶん後ろになってやがる・・・ しょうがねえ・・・やるしかねえ・・何とか飛んで届くか・・・)


(いよいよ次が、花火が地を這いながら鼠のように回るやつだ・・・ これになって・・・白虎がかつぐ柱が義隆の逆の方に行ったとき・・・ 仕込んだ手裏剣と刀を柱からはずし・・・ついにはじまるのだ・・ついに)



柱をかついでいた白虎。
(くそッ!義隆が図面よりかなり遠い・・・最初の手裏剣でなんか仕留めたい・・・
手の汗がすげえや・・・手拭いでふかないと・・・)


(花火が・・・地を跳ねまわるやつに変わった!!さあ行くぞ!)


男たちの大きな掛け声と観客のどよみき、花火の閃光が舞い散る中・・・
白虎の担ぐ柱が、義隆と真反対に来たとき・・・


白虎が手裏剣と刀を柱からとりだした。
そこから九十度回転したとき・・・
白虎は神輿から義隆の方へ向きながら
手裏剣二枚を立てつづけに投げた! (仕留めた!)
と思った時、


義隆の側にいた塚原卜伝が神速で脇差を抜き、手裏剣二枚を撥ねた。


白虎は、
(嘘だろ!俺の手裏剣が・・・信じられねえ・・・あいつは何者!)
と思いながら・・・ 白刃きらめかして義隆の方へ脱兎のごとく疾駆した。


手裏剣で気づいた義隆護衛の侍も、白虎に向かったが・・・首筋を絶たれた。
しかし、同時に飛び出した陶興房が白虎の胴を払った。
もう一人の護衛の侍が白虎の胸を刺し貫いた。


それを神輿から飛び出し、空中高くで見ていた信天翁は、
(白虎よ・・・成仏せえ!・・・俺のことにはだれも気付いてねえ。
義隆よ!生命(タマ)もらったぜー!!!)


手裏剣を撥ねた卜伝は義隆の横を動かずにいた。
白虎を斬られるのを見つめていると空中に殺気を感じ、 義隆に
「低く!」っと鋭く叫びながら、
卜伝が怪鳥(けちょう)のごとく跳んだ。


信天翁と卜伝が空中高くで交錯した。
金属のぶつかる音が一回、そしてキラキラっとする光が見えた。


パラパラっと何かが落ちた。


義隆は、自分の前にいた太郎を座って抱きしめていた。


白虎と対極の柱を担いでいた巽が・・・・
槍を持ちムササビのような速さで、すでに義隆に迫っていた。


巽は、
(みな、白虎と信天翁に気がいってるぜ・・・
ガキを抱いている義隆の首から上がきれいにみえる・・・もらったーー!)


ところが槍を突っ込もうとした時、太郎が立ち上がった。


卜伝に斬られた信天翁の血が降ってきて、それに驚いた太郎が立ち上がったのだった。


(重なって義隆が見えねえ!)
巽はそう思い、一瞬槍突き出すのを躊躇した。


次の瞬間、太郎の体が横に動き、義隆の首が見えた。
「やーーっ」と巽が槍を突き出したのだが・・・
なんと槍の先が、下に落ちた。


五郎が・・・脇差を抜き、必死の形相で槍を斬りはらったのであった。


「くそっ!」と巽は叫び、
そのまま毬のような速さで、一ノ坂川に飛び込もうとした時・・・ 左肩に激痛が走った。  
卜伝が投げた小柄が左肩に刺さったのである。


「うっー」と痛みに耐えながら、巽は川にざぶんと飛び込んだ。
その後、必死の捜索が行われたが・・・巽は見つからず逃げおおせた。


難を逃れた大内義隆であったが・・・
家来たちが祭りの即時中止を強く進言したが、
「民が年に一回楽しみにしておることよ!これしきのことで・・・
臥亀一族の襲撃は三度までという。大内は天から選ばれとるのよ。
警戒はこのまま続け、祭りは続けよ!」
とぴしりと言った。


五郎はその姿をまじかで見て、何だかよくわからないが・・・
全身でとにかく義隆様はすごいと感じた。


また義隆は、卜伝や興房はじめ警護の武士たちにを懇ろにねぎらい、 五郎には
「五郎に命を助けられたわ・・・心から礼を言う」という言葉をかけた。



次の日の夕刻・・・ 巽が菊丸と会っていた。
「俺はみたぜ。お前が一瞬躊躇したのを・・・あのガキもろとも突き刺せば殺(や)れたものを・・・。このことは棟梁(おかしら)はじめ長老たちにも話すからな・・・」


「・・・」と巽。
菊丸は、背中を向けて去っていった。 それを巽は、細く光る目で見つめていた。


その翌朝、一人の男の死体が一ノ坂川に浮いていた。菊丸だった。


巽は街道を歩きながら考えていた。
(不思議だぜ。こうやって仲間でも平気で殺(や)れるのに・・・
なぜ、あんなガキ一人に 躊躇したのか、自分でもわからねえや)



山口で塚原卜伝と別れた陶興房と五郎は、
周防の陶家の城若山城に戻ってきた。


戻ったところで興房が、
「ところで五郎、もしものために渡しておいた金の入った巾着だが返してもらおう」


「はっ」と言いながら・・・
中身がだいぶん軽くなった巾着をドキドキしながら、渡した。


中を改めた興房が、
「ずいぶん減っておるな、お前いったいいつ何に遣ったんだ」


「あっ、いえ、その・・・」と五郎が狼狽していると・・・


じっと五郎を見つめ、
「ふうん・・・まあ、よいわ」と興房が言った。

TAKAFUSA その5 陶晴賢 大内義隆VS臥亀(がき)一族の信天翁(あほうどり)(三)

屋敷を出て、京の鴨川にみたてられていたという一ノ坂川の橋を、
陶興房・塚原卜伝・五郎の三人はわたった。


朝九時半ごろのことである。
このところの雨で、満々と水をたたえた川面(かわも)が朝日できらきら輝いていた。


春には岸に桜が咲き乱れ、初夏にはゲンジボタルが幻想的に舞う一ノ坂川は、
山口に住む人々の心の癒しとなっていた。


五郎がいつもより胸を張って歩いている。 今日は嬉しくて仕方がないのである。
前の晩、父から 「明日からこれをさせ!」 と脇差をもらったからである。


その晩、部屋の中ではいけぬと言われていたのに・・・
五郎は腰に差した脇差を何回抜いて振ったことか。
寝る時も枕の横において、目覚めるたびに触って・・・ 


で、脇差をさし一人前になったような気になり、誇らしい気分で歩いていたのである。


 三人は高嶺太神宮(今の山口大神宮)と瑠璃光寺に向かう所であった。 
高嶺太神宮は、今は亡き大内義興が伊勢神宮の荘厳さに感銘をうけ、分霊を勧請(かんじょう)してできた神社である.また瑠璃光寺は陶氏が建立した寺である。 


お詣りをすませた三人は、高嶺太神宮の前にある茶店に入った。 


当時、茶店は・・京都にはちらほらあっただが、地方にはそんなものは全く存在しなかった。 


在京長かった大内義興は、山口にも京のように茶店をということで・・・ 
町役人の扇屋の先代を呼び、 
「人を募(つの)って茶店をやらせい」と命じた。 
「かしこまりました」と扇屋の先代。 


つづけて義興が、 「一軒ではなく、二軒つくらせい!」 
「二軒でございますか・・・」と先代の扇屋が怪訝な顔をすると・・・ 


「人はなあ・・・競わせねば、一つ所にとどまってしまうものよ。 
のう、お前も同業の長門屋がいるから・・・、おれも尼子や大友がいるからこそよ」
 「恐れ入りまする」 


「それから、支度金はおれが出してもよいが・・・かならず返させい、はっはっ」 
と目元を緩ませて笑った。 



 扇屋が番頭の与兵衛のこの話をすると・・・ 
「義興様もあんがいしぶちんですな」と言った。 


扇屋は、 「私も最初はそう思ったよ。しかし、あとでよく考えてみると、 
もしや義興様は借金してでもやりたいってーこころある人間が
 ほしいと思われたのではないかと・・・」


 このようにしてできあがった茶店だが・・・ 興房らが茶店に近づくと・・・
二軒とも結構にぎわっていた。 


興房は、巷でもっぱらうわさになっている秋津治郎とやらが
 つくりだした菓子「ういろうを」出していることで人気をとっている方の店に入った。 


評判のういろうを口にいれると・・・五郎は、はとのように目をまるくした。
 「父上、卜伝様・・・いや、いや、本当に旨いですな!」 と言うと、
あっと言う間にペロッとたいらげてしまったので、 
興房は 「これも食え」と自分の分を半分五郎の皿にのせた。 


「あ、ありがとうございます」とまたペロッと食べた。 


その後、興房は、市がたっていたので少し寄って帰ろうといい、 
三人はブラブラ見物していたのだが・・・。 


五郎に耳慣れぬ言葉が聞こえてきた。前から来る異な風体の二人である。 
五郎が不思議な顔をしていると・・・ 


卜伝が 「興房様、あれは明人(みんじん 中国人のこと)ですか?」
 興房が、
 「最近かなり増えてきましたよ。 私も少し興味がありまして、
恥ずかしながら実は・・・ 少し言葉を学んでおりましてな・・・ 
今の明人は確か、 『前からくるガキは、間の抜けたツラしてるな』って・・・」


 「えっ」と五郎。 
 「嘘だよっ」 
という興房と、卜伝が声を高くして笑った。


 その興房が、 
「五郎まだ何か食いたけりゃ、お前に渡した巾着の中にある金で買っていいぞ」と言った。 


「はっはい」と五郎は答えた。 


五郎はさきほど十七・八歳ごろの娘とすれ違った。
 色白で唇の赤さが際立つきれいな娘であった。 
さて全然雰囲気はちがうのだが・・・ 
その娘を見て、五郎が頭に思い描いたのは・・・亀吉の姉のお栄であった。 


お栄のすらったした体躯、やわらかにふくらんだ胸、
うつくしく伸びた指先、 涼やかな目元を思い浮かべながら・・・ 
(おねえちゃんに会いたいな) と思った。 


そう思いながら、市に並んだ品物を眺めていると五郎の目に留まったものがあった。
 なんと「かんざし」である。


 赤い球をさした白っぽい木のかんざしである。 
(おねえちゃんがそれをさした姿を頭に描き、いいないいな)
 と半笑いのような、なんともいえない表情を五郎は浮かべていた。 


興房が五郎を見て、 
「気味の悪い奴、何かいいものでもあるのか?」 という声で五郎は我にかえった。 


「あっ!いいえ、ございませぬ」と答えつつ、 
(ま、まさか、父上にかんざしがほしいとは、口がさけてもいえないな)
 と頭の中で考えていた。 


 その約三十分後、三人は屋敷に戻った。 


部屋に入った五郎は部屋で、お栄に想いをはせていた。 
(かんざしあげたらお姉ちゃんよろこぶだろうな・・・・) 
と思う気持ちがだんだん膨らんでいき、
 居ても立っても居られくなり、五郎は屋敷を出た。


 そしてかんざしの前を、行ったり来たりして迷っていたが・・・ 
とうとう思い切って 「おじちゃん、これ頂戴」とかんざしを買ったのである。


 そして次に、五郎は走って、屋敷の方ではなく・・・別の所へむかった。 


「これは、これはまたのお越しで・・・・ ありがとうございます」と茶店の主人が言った。
 五郎は、またしても、ういろうをほおばっていた。 


その帰り道、五郎は、 
(なんでおれは、ういろうまた食ったんだろう・・・ と自分のあさしましさが情けない気持ちと、
 父には言えないものを買った軽い罪悪感がいりまじった 少しどんよりした感情)
 を胸に抱えながら屋敷にもどった。 


父に会わないことを切に願いながら・・・ドキドキして・・・ 
結局会うことなく部屋に入ったのでほっとした。

池波正太郎さんの小説

『鬼平犯科帳』4巻p246-247


言下(げんか)に平蔵が、
「同じ稼業をし、同じ女であってもおまさとおみねではくらべものにならぬ。
おみねという女には、とうてい、大事な役目がつとまろうはずがないのだよ、佐島」
「ははあ・・・・」
「女という生きものは、みな一色(ひといろ)のようでいて、これがちがう。女に
男なみの仕事をさせたときに違ってくるのだ。もっとも盗みの仕事ではないがな」
「はい」
「老朽なおぬしも、只ひとつ女には疎いなあ」
「おそれ入りました。まったくその通りで・・・」
「ときに、牢屋敷に送り込んだ徳次郎はどうだ?」
「これがその、近ごろはめっきり衰えまして・・・食もすすみませぬそうで」
「ふうむ徳め、よほどにおみねを忘れかねていると見える。こうなると女の方
がつよいな」
「ははあ・・・」
「佐島。どうだ、おれといっしょに、忍びで岡場所の女でも抱きに行こうかね」
「と、とんでもないことを・・・」
「ふ、ふふ・・・さて、おみねという女、どう始末をしたものか・・・」



池波正太郎さんの小説。おもしろいですね。
まさに最高のエンターテイメントだと思います。


そう本を読む方ではありませんが、池波さんの小説はまるでマンガの
ように読めてしまい、思わず時を忘れてしまします。


上の文章ですが・・・男である私にとって  
     女性の難しさ・・・、男の弱さ・・・
いやーーとびあがるほど共感してしまいます。


重い病気にかかり、活動が制限されるようになりました。
で、「TAKAFUSA」書き始めました。


注目記事にも取り上ていただいて、今かなり興奮気味です。(ありがとうございます)
躰に負担のかからないよう、のんびり書き進めていきます。よろしくお願いします。