kanossaのブログ

歴史小説や時代小説を綴ることを中心としたブログです。
簡単に読めるものを書いていきます。最初は、戦国時代
に主君大内義隆を殺害し、厳島の合戦で毛利元就に敗れ
散っていった陶晴賢(五郎→陶隆房→陶晴賢)を主人公
とした「TAKAFUSA」を書きすすめます。

時代小説「TAKAFUSA」その15 出立


まえがき


今は陶晴賢子供時代のお話となっています。兄を失い、また愛犬タキを失うという悲しみも体験しながらも、父・母に厳しくも温かく育まれ・・・また、又二郎・百乃介・与吉などの仲間にもめぐまれ、浜の網元の娘お栄にほのかなあこがれを抱く五郎、泣いたり笑ったり危機に陥ったり・・・多感な少年時代をすごしています。また五郎は爺との絆を深めていきます。今回は、毛利元就に会うために爺と一緒に五郎は旅に出ます。


その15


夜眠っている五郎だったが、時折、その顔が笑い顔になるのである。

それは、夢を見ていたからであった。


「五郎様、これを食べられませ」と五郎の目のまえに差し出されたのは・・・

五郎が、好きで好きでたまらない、ういろうであった。

(ああうまそう)

「食べていいのかい」

「もちろんですわ、このまま、私の手から食べてください」

ここで、眠っている五郎の頬が揺れた。笑ったのである。

そして、夢の中で、ういろうをさしだしてくれてるのは、

五郎が憧れている切れ長の目元が涼しいお栄であった。


「ええ、五郎様はここのところ顔をみせてくださらない、少し寂しいですわ」

またもや頬が揺れた。

「とにかく、ういろう食べてくださいませ。」

お栄が、少し首をかたむけにっこりほほ笑んだ。


そして、五郎が、「あーん」とういろうをまさに口に入れようとした時、

はっと目が覚めた。

(ああーいいところだったのに)と五郎は、

顔をしかめたが、でもすぐににやけ顔にもどった。

(お栄ちゃん、かわいいなあ)


五郎は、先日又二郎から聞いたのである。

五郎が爺と山に籠もっているときに、又二郎と百乃介が江田浜に行ったのだが、

その際、五郎たちが仲良くしている網元の息子亀吉の姉お栄が、

「五郎様は、どうされていますか」

心配げな顔して、又二郎にたずたということを。


(気にかけてくれてるんだ)

それで嬉しくてたまらない五郎であった。

(よし、今日は江田浜にでかけよう)

と心に決めて、もう一度布団にもぐりこんだ。


朝になり、

五郎は、江田浜に出かけることを告げに、父の興房のところへ行った。

「父上、実は・・・」

興房は、その言葉を遮るように

「ちょうど良いところへまいった。先日毛利殿から手紙が戻ってきての。

喜んで待っておるということであったわ。後藤殿には、伝えてあったのだが、

お前にはすっかり言うの忘れておった」


「はっ、わかりました。喜んでおうかがいしたいと思います」

続けて、

「父上、実は今日は・・」

「おー、五郎それでの、今日昼過ぎに出立せよ」

「今日、今日でございますか」

五郎の目が点になっている。


「そうじゃ。突然で申し訳なかったが、後藤殿が昼にまいる。

一緒に飯を食ってからの」

五郎の顔が、曇っているのをみた興房が、

「なんぞ、差しさわりでもあるか」

「いえ、何も。毛利様に会えること実に楽しみでございます」

(お栄ちゃんに会いたいなんていえるわけない、と心で泣きながら)

わざと、張った声で答えた。

「そうか。ではあとでともに飯を食おう」


その昼過ぎのこと、

「では、後藤殿、五郎が面倒かけると思いますが、一つよろしくお願いいたします」

興房が、深々と頭を下げた。

「五郎殿との二人旅、楽しんでまいります」

爺もまた、丁寧に礼をした。

「では父上いってまいります」

五郎の声は、明るくはずんだものであった。

「おお、達者でな」

この時には、五郎の気持ちはすっかり切りかわっており、

爺との初めての長旅を思い、うきうきしていたのである。


母親のお藤の目には、さみしい色が浮かんでいた。

何も声はかけなかったが、二人の姿が見えなくなるまでずっと立って見送っていた。

お藤の横にいた五郎の愛犬マツが二度吠える声が聞こえた。


うららかな陽が静かに照りわたる、昼過ぎのことであった。


爺が五郎の方へ顔をむけた。

「五郎殿、今日は呼坂宿ぐらいまで行きましょうかの。まずは足ならしじゃ。

あそこでは、知り合いが大きな宿を営んでおって・・・何ぞうまいものが食えるかも」

「爺、たのしみじゃ」

五郎は、舌をぺろりと出した。


街道を歩いていると、

向こうから歩いてきた一人の武士がはっとして声を次のようにかけ、

「後藤様、後藤様、御無沙汰しております」

爺のところへやってきた。

身なりもよく、色が白くて人品がよさそうな感じである。にこやかな笑顔で

爺と歓談している。笑顔が爽やかであった。

しばらく後、

「それでは後藤様、また」といい、

丁重にお辞儀をして去っていった。


「五郎殿、今の武士をどうみられるか」

「どう、爺と久しぶりにあって、とても喜んでいるようにみえた」

と五郎は答えた。

「なるほど。しかし爺は、あの男はこんなところでいやな奴に会ったと思っているとかんがえまする」

だまったまま、少し首をひねった五郎であった。

そして、

「でも、爺の方見て、嬉しそうにいっぱい笑っておったではないか」

「確かに。だが五郎殿は、気がつきませんでしたかな。

笑う時に口元と目元が同時に動いていたのを」

「え!」


「人というものは笑う時は、まず口元から動き、次に目が動いていくものです。

じゃが、あの御仁は、どうでしょう。あれは、間違いありません。つくり笑いです。

それに、話している間中、ずっと右足が少し横に向いていましたぞ。

早く逃げたいという心のあらわれです」

爺はかすかにほほ笑み語りかけた。


「そのような」

(さすが爺はすごい)と思い、

五郎は、目をみはった。


「五郎殿はいずれ多くの人間を束ねていくお方。

人を深く見るということを学んでいかなければなりませんぞ」

と爺が神妙な面持になり、重い口調で五郎に語った。


「そうじゃな、いろいろ、これからも教えてくれ」

五郎は真面目な表情で、爺に頭を軽く下げながらいった。

「わかり申した。」

と言ったあと、急に爺の表情が緩み、少し意地悪そうな顔になった。。


「五郎殿、実をいうと爺はあの御仁には結構な額の金を貸しておりまする。

とうに約束の期限は過ぎておるのに、あやつはまだ返しませぬ」

と珍しく爺が笑い声をあげながらいった。


五郎は目をぱちくりさせ、

「爺、ずるいぞ!後出しではないか。それを知っておれば、わしにもわかったかもしれん」

「はっはっは」また爺が笑った。


楽し気に歩く二人の後方の西の空には、

うつくしい夕焼けが、かざられていた。



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時代小説「TAKAFUSA」関連    小説の冒頭部分



「初物語」宮部みゆき (新潮文庫)


p59 -白魚の目ー


 二月の末、江戸の町に大雪が降った。過ぎたばかりの冬のあいだも、ことのほか雪の多い年だったので、誰もそれに驚かず、また珍しがりもしなかったが、そここで咲く梅の花には迷惑なことだった。・・・・。凍ったように凪いだ川の上に、数えきれないほどの切片が舞い落ちては消えていく。

 降り始めの雪はにぎやかだ。下にいる人々が、頭上を見上げては「おや、雪だ」「あら雪だよ」などと声をあげて迎えるので、雪の方も嬉しいのかもしれない。しんしんと音もなくーというふうになるのは、もっとたくさん降りつもってからのことである。

 手の甲を空に向けて雪片を受け止め、茂七はひょいと思った。・・・・



 ある方から小説の書き出しは難しいですねと言われ、「確かに」と思いました。私の書いている「TAKAFUSA」も一番最初だけは、結構考えました。でも、それ以降は、ごく簡単な「のどかな春の陽ざしの下、朝から城の庭で又二郎と剣術の稽古を行っていた。」のようなものになっています。少しがんばらないと。この宮部みゆきさんの短編の書き出し、やっぱりよく練られていて、さすがですね。






「恋しぐれ」葉室麟 (文春文庫)

p165


 蕪村はおもとをはじめてみた時

(雛人形のような顔や)

と思った。



 これも、関西弁がポンと出てきて、惹きつけられた一節でした。


「TAKAFUSA」の冒頭は、


五郎がふと障子の外の方で、なにやら動いている気配を感じた。

障子を少し開けて目をやると、塀の上を歩いているものがいる。それも悠遊と。

その堂々たる姿は、何かしら荘厳な感じすらした。


五郎の視線を感じたのか、そいつも動きを止め、五郎の方を見た。

口に一匹のネズミを咥えている猫であった。

かなり大きい。茶色地に黒の縞模様が入っている。


その顔は夜叉のようであり、五郎を見つめる眼は薄汚れたように濁っているのだが、

その中央から発せられる光はすさまじかった。


しばらく、五郎と猫はにらみ合ったままである。

五郎は猫の眼光にしだいに気圧されていく自分を感じた。


負けるもんかと思ったが、猫がだんだん大きくなっていくように感じ、怖くなった。

そして目を逸らした。


すると猫は顔をゆっくりと前に向け、何事もなかったようにまた歩き出した。




猫も夜叉もいい感じのがみつからなかったので、ライオン貼りつけました。


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時代小説「TAKAFUSA」関連  男と女

「御宿かわせみ」 平岩弓枝 (文春文庫)から


165166
「そんな話までしたのか」
東吾が笑った。
「男でも、女でも、身の上話をはじめた時は、相手に気がある証拠だそうだ」
「馬鹿ばっかし・・・」
流石に、るいは赤くなった。
「こんな、俄かめくらのお婆さんに、冗談もいい加減にして下さいまし」
「女の眼病みは色っぽいもんだ。そうやって紅絹の布で眼を拭いているところなんぞ、ついむらむらとしてくるからな」
 思いきり、るいは東吾の太腿をつねった。その手を掴んで、東吾がひきよせる。いってみれば痴話喧嘩で、宵の中だというのに、ひっそりしてしまったるいの部屋には、お吉も番頭の嘉助も、すっかり心得て近づかない。


さすが平岩先生、うまいなあとため息がでます。男女関係を描くのは難しいですね。いつかこんなふうに、読み手に映画のようにイメージさせることができる書き方ができるようになりたいです。




この前 五郎たちが爺にごちそうしてもらった、鴨鍋とごはんのイメージ映像です。

 


竹筒で炊いたご飯 いい香りがしそうですね



甲冑をつけての剣術は、江戸時代に発展した剣術とはまた違うようです

 


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