kanossaのブログ

歴史小説や時代小説を綴ることを中心としたブログです。
簡単に読めるものを書いていきます。最初は、戦国時代
に主君大内義隆を殺害し、厳島の合戦で毛利元就に敗れ
散っていった陶晴賢(五郎→陶隆房→陶晴賢)を主人公
とした「TAKAFUSA」を書きすすめます。

TAKAFUSA その1 陶晴賢ガン飛ばす練習をする

その1


五郎がふと障子の外の方で、なにやら動いている気配を感じた。
障子を少し開けて目をやると、塀の上を歩いているものがいる。それも悠遊と。
その堂々たる姿は、何かしら荘厳な感じすらした。


五郎の視線を感じたのか、そいつも動きを止め、五郎の方を見た。
口に一匹のネズミを咥えている猫であった。
かなり大きい。茶色地に黒の縞模様が入っている。


その顔は夜叉のようであり、五郎を見つめる眼は薄汚れたように濁っているのだが、
その中央から発せられる光はすさまじかった。


しばらく、五郎と猫はにらみ合ったままである。
五郎は猫の眼光にしだいに気圧されていく自分を感じた。


負けるもんかと思ったが、猫がだんだん大きくなっていくように感じ、怖くなった。
そして目を逸らした。


すると猫は顔をゆっくりと前に向け、何事もなかったようにまた歩き出した。
五郎は、猫の迫力に負け、目を逸らした自分が情けなかった。


五郎とは、陶晴賢の幼名である。
陶家は、中国地方の大大名大内家の庶流であり、重臣筆頭の家柄である。
この時の当主は陶興房で、五郎はその次男であった。



「五郎、何をしておる」 と年の離れた兄の興昌がにこにこしながら声をかけた。
「稽古をしております」


「何の稽古じゃ。」
「勝つための稽古にございます」


「そんな怖い顔して、一体何に勝つつもりじゃ」
「猫でございます」


五郎は、数日前にらみ合いで猫に負けたことを話した。


「なるほど・・・それで、鏡をにらんでおったのだな」 声をあげて笑いながら言った。


「兄上、私が猫に負けたことは内緒ですよ。」
「おお内緒、内緒」


「約束ですよ、兄上」
「心配は無用じゃ。男と男の約束である。で、五郎、上達したか。」


「外を歩いては犬や猫をみつけては勝負を挑むのですが、なかなか相手をしてもらえませぬ。」
「では、兄者と勝負じゃ!五郎こっちを見い」
「では勝負でござる」


二人はにらみ合った。
五郎は、とびきりの怖い顔をつくり、兄の目を見つめた。


が、普段の優しい兄とは違い、ギラリと光る短刀のような鋭い目に、圧倒されそうになった。
(まけちゃいけない!) と思い、頑張って目を見続ける五郎。


しばらくすると 兄がすっと視線を逸らし、
「わしの負けじゃ!実に恐ろしい顔じゃった。おもわずちびりそうになったぞ。もし、わしがいなくなっても、五郎がおれば、陶の家は安泰じゃ」
と開けっ広げの笑みを顔いっぱいにこぼした。



五郎の兄の陶興昌は、陶家の跡取りであり、
また眉目秀麗で主君大内義隆から寵愛されてもおり、
その未来は約束されたものであった。


興昌も、父が行ってきたように、大内の家を守り、盛り立てていこうという強い気持ちを持っていた。


そんな興昌は、
「五郎、川に泳ぎにまいるぞ、ついてまいれ」
「相撲をとろう。かかってこい」
「さあ、これから飯の早食い競争じゃ」
などと、弟の五郎をたいそう可愛がった。
また、五郎もそんな兄のことが大好きだった。



ところが、その兄の姿がある日突然見えなくなった。


家の者に聞いても、皆知らぬようで、わからないという。
母に聞こうと思ったが、
「奥方様は今風邪で臥せっておられ、うつしてはいけないので今は五郎様に会えないとのこと」と女中に言われ・・・・


思い切って父に尋ねると、
「興昌は、今使いにやっておる」 と恐ろしく真剣な顔でにべもなく言われた。


その二日後、五郎は父に呼ばれ、
「五郎、うちの城にとても身分の高いお客様がやってくるのでな。
ばたばたするので五郎は三日ほど親戚の所へおってくれ。
迷惑をかけるでないぞ。三日後に迎えをやるからな」
と言い、家の者に五郎を送らせた。


三日たち、五郎が城に戻るとすぐ兄の姿を探した。
が、どこにも見つからなかった。


(まだ帰ってないのかな)と思っていると、両親に呼ばれた。 


そこで、父から、訳あって兄を養子として遠くへやったこと、
五郎が跡取りとして陶家を背負っていかなかなければいけないことなど・・・
を諄々と聞かされた。 


「よいの五郎。兄はもういないものと思え。陶家を頼むぞ」 と言われ、
頭は混乱していたが、 
「はっ」 と答えるほかなかった。 


兄がいなくなり五郎の心はぽっかり穴が開いたような感じだった。
寂しかった。兄を想い時折涙がこぼれた。 


すると、しばらくして、父の興房が家に柴犬の子二匹を連れてやってきた。 
家来の家で五匹生まれたので二匹もらってきたとのことであった。 


「お前が、こやつらの名をつけよ」 と父から言われ、
五郎は二匹の柴犬にタキとマツと名付けた。
タキもマツも活発な性質でとにかく始終走り回っていた。
はじめて餌をやった時、その一心不乱に食う姿がとにかくかわいくて
五郎はニコニコしながら熱心に見入った。


 新しい元気な遊び仲間ができ、五郎はいつしか兄を失った寂しさも薄れ、元気を取り戻していった。 


その何年もあとのことになるが・・・・ 


五郎が大きくなるにつれ、兄についてのことがいろいろ耳に入ってきた。 
どうでも兄は養子にやられたのではなく実は亡くなっていたこと・・・
それも父の勘気にふれ手討ちになったとか・・・
その原因がなんと大内の殿さま(大内義隆)を悪しざまに罵ったこと
であったことなどがわかってきた。 


それを知り一時、父のことを憎く感じることもあったが・・・ 


やがて五郎が大内義隆の寵を受けるようになると、
義隆に心酔した五郎は、 
(義隆様を口汚く罵ったということであれば・・・
自分が父であっても斬ったに違いない) 
と思うようになっていった。

TAKAFUSA  戦国時代を駆け抜けた陶晴賢を描いた作品です

TAKAFUSAとは陶隆房のことである。陶隆房の名は有名ではないが、主君大内義隆を殺害し、のち厳島の合戦で毛利元就に討たれた陶晴賢といえば知っている人も多いだろう。その陶晴賢の歩みを歴史の大筋には沿いながらフィクションで描いていきます。 全く初めての小説執筆なので、小説の体はなしていないと思います。また、時代考証なども大嘘がたくさん入ってしまうと思いますがお許しください。少数の方にでも読んでいただければありがたいです。


*時間、長さなどは、わかりやすいと思うので現代のものを使用しています。
*「小説家になろう」にも載せています。