kanossaのブログ

歴史小説や時代小説を綴ることを中心としたブログです。
簡単に読めるものを書いていきます。最初は、戦国時代
に主君大内義隆を殺害し、厳島の合戦で毛利元就に敗れ
散っていった陶晴賢(五郎→陶隆房→陶晴賢)を主人公
とした「TAKAFUSA」を書きすすめます。

TAKAFUSA その8 陶晴賢 茶色と黒の瞳を持つ男vs五郎の父(二)

まえがき
今は陶晴賢子供時代のお話となっています。兄を失い、また愛犬タキを失うという悲しみも体験しながらも、父・母に厳しくも温かく育まれ・・・また、又二郎・百乃介・与吉などの仲間にもめぐまれ、浜の網元の娘お栄にほのかなあこがれを抱く五郎、泣いたり笑ったり危機に陥ったり・・・多感な少年時代をすごしています。今日は牛田山の麓のお堂が舞台です。・・・前回、人さらいたちのお堂から何とか脱出した五郎と与吉ですが・・・どうやって人質たちをたすけるのか・・・。


その8 (二)
外にでてしずかにお堂から離れ・・・
木立に入った五郎と与吉、なにやらひそひそ話し合ったが・・・


「お峰ねえちゃんから目を離しくない」という与吉の一言で、


お堂を与吉が見張り、もし奴らが移動した場合は後をつけることに。
そして、五郎は、家中の侍たちを呼びにいくことが決まった。


五郎が
「もし見つかったら・・・どうする、与吉」


「五郎様、見つかったら全速力であの洞窟に逃げまする。
小さい折からあそこで遊んでおったので・・・横穴、縦穴・・・
私が得意にしているのは・・・五郎様がよく知っておられること」
と与吉はニコリと笑った。


「確かに」と五郎。


「では、できるだけ早く、よろしく、よろしくお願いいたします」
「わかった、与吉・・・くれぐれも気をつけてな」
と言い五郎は、城に向けて走り出した。


一人残された与吉は・・・お堂がよく見えるようにと、
お堂の道を挟んだ斜め向かいにある
大きな木の裏に隠れ、お堂をちらちら伺っていた。
(お峰姉ちゃん、必ず助け出すから・・・無事で・・)
と思いながら・・・。


と、突然後ろから
「坊主、なにしている!」と与吉は襟組をつかまれた。


遅れてやってきた一味の男だった。
男は、お堂に向け
「おーい変なガキがいるぞー」と叫んだ。


与吉は躰をくるりと返し、男の手首に死ぬ思いで噛みついた。
「あっ」と男が手を放したので・・・全力で洞窟に向けて走りだした。


男は手首を抑えながら・・・与吉を追いかけ、またお堂に呼びかけると
男たちが出てきて・・・一緒に与吉を追いかけた。


(お峰姉ちゃん助けるどころか・・・こんなことに情けない・・・
捕まったら殺される・・・何とか、何とか逃げおおせないと・・・)
と死に物狂いで駆けた。


洞窟が見えた。
(もうすぐだ・・・)


ところが、追手の一人が与吉にあと数メートルに迫った。
「待て、ガキー!」と鬼の形相で絶叫する。


洞窟のところまで来て、後ろに気づいた与吉が、
(追いつかれる・・・もうだめだ!)
と思ったとき、矢のような速さで追手の男に何かがぶつかった。


「ぎゃー」とその男は、両手で顔を覆った。
なんと、それは先ほどの猫であった。
次々と男たちに襲い掛かった。


「くそー」と男の一人が・・・脇差を抜き一閃すると・・・
その猫は血を噴きながら地に落ちた。


なおも・・・お立ち上がろうとしたのだが・・・斃れた。


この間に、与吉は洞窟に入ることができた。



一方五郎は・・・
今までこんなに駆けたことはないというくらい駆けた。
途中何度もこけたが・・・走り続けた。(何とか早く・・・早く・・・)


偶然、遠駆(とおがけ)をしている若侍に出会った。
異様な五郎の様子を見て・・・
「五郎様どうされました」
理由(わけ)を聞き、二人で馬に乗り急ぎ城に戻った。


事情を聞いた陶興房は
「すぐ参るぞ!」と、
自ら先頭に立ち二十騎を率いて現場に向かった。


洞窟の中で男たちはてんてこ舞していた。
目がほとんど見えない中、歩いていると、洞窟の上の穴の開いたところから
石を投げられ、砂をかけられ・・・


しかし、やがて男たちも目が慣れてきて・・・徐々に与吉は追い詰められていった。
(だめだ・・・もう逃げるところがない・・・しょうがない)


ということで、縦に狭く横に長細い口になっている・・約五メートルの奥行の・・大人の体では入ることができない行き止まりの穴に潜んだ。


男たちが懸命にさがす。
(見つからないように)と与吉は祈る。


「このあたりにいるはずなのだが・・・どこ隠れやがった」
「い、いたぞーーこの奥だ!」
「見つけたぞ坊主、手かけやがって・・・」
と男たち。


与吉は、
(もうだめだ・・・)と思った。


「おい、入れねえぞー、狭いや」
「出てこい、このやろう・・・」
「生き埋めにしたら・・・でも間口が広すぎるか・・・」
「火を焚いて燻(いぶ)し殺そう」
「そうだな」


男たちは準備を整え、火を燃やしはじめた。


「ごほん、ごほん」と咳き込む与吉。与吉は父・母のことを思い出していた。


にわかに洞窟の口あたりが騒がしくなった。
二十騎のうち七騎がやって来たのである。
指揮をとるのは家中一の遣い手、佐藤清兵衛。
しばらく前・・・塚原卜伝との試合で、子ども扱いされ・・・
上には上がいることを思い知らされ、後、鬼のような修行に打ち込んでいる。


「賊どもよ。お縄につけ。手向かいいたさば容赦なく斬る」と清兵衛。


この言葉が合図となり、闘いが始まったが・・・陶家中の手練れ集団相手にかなうわけがない。
二人が斬り殺され、二人が捕まった。



お堂の方では・・・


陶興房率いる十三騎は、お堂から離れたところで馬を降り、
気づかれないように中の様子を確認した上で・・・
表と裏から一斉に踏み込んだ。


表から踏み込んだ三名がまず人質の前を固め、それ以外が賊に向かった。


先頭に立っていた興房が
「大内家家臣の陶興房である。神妙に縛につけ!」


左右の瞳の色の違う賊の首領が、
「ほほう殿様が自ら・・・余程の阿呆か、物好きか。
わしはここで死ぬだろうが・・・最後におもしろい機会をもらったわ。
お殿様と斬り合いができるとわな」


「まいれ!」と興房。


「人生は理不尽なものぞ。後悔させてやる!」


「たー」
「やー」
二人が同時に踏み込み、二人の体が交差した。


男が振り向き・・・
「世の中は・・おもしろいのお・・・」と言いながら、口から血を流して斃れた


あとの二人は召しとられ、若い娘たちは全員無事に助けられた。


五郎は七騎とともに洞窟に向かい、助け出された与吉と手に手をとった。
「五郎様・・・」あとは言葉にならなかった。


すぐに二人もお堂に向かい・・・
与吉は、お峰の無事を心から喜んだ。


洞窟で捕まった男たちから・・・猫の話を聞いた一行は、
猫のおかげで与吉が助かったことがわかり、懇ろに葬ってやろうと洞窟に向かった。


洞窟に近づくと、
「みゃーみゃー」という猫の鳴き声が聞こえた。


死んだ猫に二匹のまだ小さな子猫が体をこすりつけ鳴いていた。


死んだ猫は、子猫たちの危機を救うつもりで命をかけて立ち向かっていったのであった。
また、お堂に向かったのも・・・時々食べ物の残りがあるので・・・それを探してのことだった。


五郎と与吉は・・・その子猫を大事に持って帰った。
与吉の母親が大の猫嫌いということもあり・・・
五郎が飼うことになった。


乳歯が生え始めていたので、生後三・四週間というところだろうか。
五郎は二匹に、アキとフユと名付けた。


その二日後・・・


秋の陽だまりの中、餌を食べたアキとフユが仲良く眠っている。


そこへやってきた一匹の犬。
・・・そうマツである。


タキを鳶に連れ去られ寂しそうに過ごしていたのだが・・・


マツは二匹の猫に鼻を近づけ、クンクン嗅いだ。


その後すぐ離れたのだが・・・


また戻ってきて横に座り、五郎が見ると・・・優しく二匹をなめていた。


五郎の心はあたたかく和んだ。



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アキとフユイメージ映像です。
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