kanossaのブログ

歴史小説や時代小説を綴ることを中心としたブログです。
簡単に読めるものを書いていきます。最初は、戦国時代
に主君大内義隆を殺害し、厳島の合戦で毛利元就に敗れ
散っていった陶晴賢(五郎→陶隆房→陶晴賢)を主人公
とした「TAKAFUSA」を書きすすめます。

TAKAFUSA その11 陶晴賢 鬼畜(二)

まえがき

今は陶晴賢子供時代のお話となっています。兄を失い、また愛犬タキを失うという悲しみも体験しながらも、父・母に厳しくも温かく育まれ・・・また、又二郎・百乃介・与吉などの仲間にもめぐまれ、浜の網元の娘お栄にほのかなあこがれを抱く五郎、泣いたり笑ったり危機に陥ったり・・・多感な少年時代をすごしています。今回も五郎は危険な事件に巻き込まれていきます。仲の良かった誠吉の死に不審な点があり・・・・・・・・。


その11(二)


口をもぐもぐ動かしながら、
「どうじゃ、うまかろう」と五郎。
「確かに美味しゅうございます」と与吉。
「いやーーまったくでございますな」
といいう又二郎の頬がうれしさで緩んでいる。
百乃介は、ただただうなづくばかり。そして目にはうっすらと涙が。


すると爺が
「もう一皿づつ食べなされ。爺の奢りじゃ!」
皆から
「おー」という歓声があがった。
ぺろっとたいらげた五郎は、みなを茶店に残し離れたところにいる物乞いに近寄った。


「これは、五郎様、またういろうですか」

「いやっ、またってそんなに来てるかな」
「二日前もいらっしゃっておられましたよ」
「そうだったかな」と照れ笑いする五郎。


その物乞いは誠吉といい、年のころは八つくらいで、片足が生まれつきない

とのことであった。


五郎も爺と物乞い生活をたびたびしていたので誠吉とも仲良くなったのである。

性格は明るく、何にでも興味を示す活発な子だった。


茶店では、亭主が、
「陶の若様は、誠にういろうに目がないですな・・・よくおいでくださいまして
こっちは大儲かりでございます」
「あれは・・・悪い病気ですな」
爺と亭主が声をあげて笑っていた


するとそこへ荷車をひいて、誠吉の迎えに庄吉がやってきた。荷車にはすでに

肢体不自由で物乞いをしている子供らが四人ほど乗せていた。


五郎は庄吉とも顔見知りだった。
「五郎様、ぜひ今度うちの方へ遊びに来てください。大内のお殿様
にも、お認めいただき多額の奨励金もいただいて・・・昨年は家屋も
立て替えて綺麗になっておりまする」


「五郎様、ぜひ待ってますよ」と誠吉。

「ああ」と五郎。


その日の夜半のこと・・・
誠吉が厠にいくと・・・あいにくのことに誰かが先に入っていた。


(今日はあったかいし散歩ついでで・・・)
母屋の離れの厠を松葉づえつきながらめざした。


その途中ふと見ると母屋の地面から少し上の部分から灯りがもれていた。
(何だろう?)
ということ見に行くと・・・


その灯りが漏れているところは、小さな四角い穴になっていた。

いつもは板をはめこんであるようで、同じような箇所がそこ以外にも
四箇所あるのだが、それらには全部板がはめてあった。


そこだけ外れて下に落ちていたのである。その穴からのぞくとぼんやり中の様子が見えた。

どうやらそこは地下室のようである。


見ると・・・なにやら僧形の男がぶつぶつつぶやいていた。

男は誰か寝ている人間に話しているようなのだが・・・
男の背中でよく見えない。
(なんだろうな。よく見えねえ。また来よう)
その日、誠吉は板を静かにはめて自分の寝床に戻った。


誠吉は次の晩またでかけた。

今度は違う場所に行き、はめ板をしずかに外した。

その日は部屋の中がよく見えた。
誠吉はびっくりした。


部屋の中央にぐったりとしている女の子の下半身が露わになっている。

意識はなく寝ているように見える。男が四人ほどいる。
三人の男が女の子の体を固定し、そのうちの一人が手拭を女の子の口に
入れている。


そしてもう一人の男が手に持っているのが・・・なんととても大きな斧である。
(嘘だろー)と誠吉は思った。


男はその斧をかつぎあげ・・・そして、次の瞬間


「えい!」


とふりおろした。左脚が飛んだ。血が噴き出している。


薬か何か飲まされているのか・・・女の子はうんともすんともいわない。
男の一人が手早く傷口に焼酎らしきものをふりかけ、もう一人の男が傷口
を縫いにかかっている。


あまりに凄惨な場面を見て、動けなくなっていた誠吉だったが・・・

突然後ろからこん棒で殴られて気を失った。


翌日、沢で誠吉の死体が発見された。

きっと夜ふらふら散歩して、土手で足を滑らして

沢に落ち、水につかり溺死したのだろうと考えられた。


五郎も知り合いだったので、爺と死体を確認しに行ったのである。


そこで五郎は悲しみにくれつつ、合掌していたのだが・・・

(あれっ)と思った。
誠吉は、生前、「おれは生まれつき足がなかったんだ」と話していたのだが・・・
脚をみると・・・五郎にはどうしてもそうは見えなかった。


爺に聞くと・・・「これは生後に事故かなにか・・・とにかく斬られたことは間違いない」とのこと。





TAKAFUSA その11 陶晴賢 鬼畜(一)

まえがき

今は陶晴賢子供時代のお話となっています。兄を失い、また愛犬タキを失うという悲しみも体験しながらも、父・母に厳しくも温かく育まれ・・・また、又二郎・百乃介・与吉などの仲間にもめぐまれ、浜の網元の娘お栄にほのかなあこがれを抱く五郎、泣いたり笑ったり危機に陥ったり・・・多感な少年時代をすごしています。今回も五郎は危険な事件に巻き込まれていきます。




その11



(一)
小間物問屋の泉屋善右衛門は、親たちから見放された捨てられたりした肢体不自由の
子どもたちやの知的障害をもつ子供たちを収容する施設を営んでいた。

その施設の中でのことである。

泉屋善右衛門が、昼時に皆を集めて口を開いた・・・
子どもたちや働いてる人間たちもシーンとしてみな善右衛門をじっと凝視している。

「さて今回少し遠くにはなるがな・・・越前の方の大店(おおだな)の主の方が
是非子供を預かりたいという申し出があってな・・・
誰にしようか、それはそれは悩んだのだが・・・」

みんなが固唾を飲んで見守っている。
「このたびは・・・」
「そう、このたびは・・・」

「みなでいろいろ相談した結果・・・」

「・・・太郎にすることにした」と大声で叫んだ。

「おおー」というどよめきが起こっている。

「おれだ、おれだ!やったー!」と太郎は狂気している。
「いいなー」「いいなー」という声も飛び交っている。

そう、ここの子どもたちにとっては、時々ある、いい家からの
申し出で引き取られていくことが夢なのである。

時折、引き取られた子供が遊びにきたりすることがある。先日も
防府の商家に引き取られた駒江が遊びに来ていたのだが・・・・

知的障害の子は当時「福子」ななどと呼ばれたりしており、そういう子が
いると家が栄えるというふうに信じられてもおり、時折あえてそういう子を
引き取るようなこともあった。駒江がそうだった。

駒江は、きれいな服、美味しい食事、温かい風呂・・・そして何よりもいっぱいの
愛情に包まれ大事に育てられていた。
駒江の様子から、それが子どもたちには一目でわかるのである。

(いいなあ。うらやましいなあ)と皆心底思った。

遠隔地に行った子は顔を見せることはないが・・・時々、泉屋の手代などが以後の様子を見に行ったり、時には善右衛門自身が直接行くこともあり・・・いかに幸せに暮らしているか。その見たままを施設の子どもたちに伝えるのである。

確かにこの施設も悪くはない。世話してくれる人も親切だし。皆仲もいい。
しかし、食事もそう豊かなものではないし、施設に少しでも報いるためには
物乞いにも行かなければならない。暑い日も寒い日もあり・・・また、街頭で罵声、
悪態などを浴びることも日常のこと・・・

(あー私もはやくいいおうちへもらわれていきたい)というのは皆の夢であった。



その夜のこと・・・

善右衛門の屋敷の一室でのこと。
泉屋の主(あるじ)の善右衛門と密教僧の道雪と番頭の孫左衛門が語っている。

「太郎は、十四歳になり、体も大きゅうなって各段と飯を食うように・・・
また見栄えもいまいち・・・よって物乞いしてあまり稼げぬ・・・
じゃから、逝ってもらうことにしたのじゃ」
善右衛門が真顔で語ると、

「例によって、薬で・・・」と密教僧の道雪

「そうよ、太郎や、さようなら。いい夢見て苦しまずに逝けるのだから
最高だろうて・・・」善右衛門は酒を口に含ませた。
続けて、
「馬鹿どもが貢ぐ酒の旨さよ・・極楽、極楽ふっふっふ」

「確かに旨い。この明(みん)の酒は甘くて芳醇な香りがいたしますな」
孫左衛門が杯の酒を見つめた。

「道雪殿、この酒は桂花陳酒と言ってな。唐の楊貴妃も好んだ酒だそうな」と善右衛門。

「ほう」

「ところで孫左衛門や、次の仕入れ(人さらい)はどうなっておる。とにかく見栄えのよいのを
選(よ)らんとだめだぜ・・・この商売やり出してからつくづく思うのだが、
人間ってえやつは意識するしないに関わらず、とにかく外見のいいのに魅(ひ)かれる
動物よ」

「わかっておりまする。しかし、ここの子どもの数もかなり増えて、
かなり世間でも知られるようになってきましたが大丈夫ですかね。」

「そりゃ、多けりゃ多いほどもうかるのじゃ。やらいでか。大丈夫かって。
そりゃ大内のバカ殿が『これは奇特なことよ』などと、阿呆なこと申して
たんまり奨励金までくれるのじゃからの。お墨付きもあるのじゃから、大手
を振ってやればいいのよ。笑いが止まらぬわ!」

道雪が
「善右衛門殿は鬼畜ですな」

「鬼畜な!結構結構。儲かるなら鬼畜でも、魔物にでもなるわ」


さて、表向きは小間物問屋の泉屋善右衛門は、子どもをあちこちからさらってきて・・・
体を不具にしたり・・・精神を崩壊させたりして・・・
物乞いをさせてしこたま儲けていたのである。

そこで大きな役割をはたしていたのが、密教僧の道雪であった。
酒、薬と妖術を使い・・こども精神を崩壊させたり、子どもたちを洗脳し
記憶を植え付けたりしていたのである。

さらわれてきて足を切られた子なども、道雪の手にかかれば、生まれた時から不具で
親から河原に捨てられ善右衛門に拾われたのだとかたく信じ込んでいたのである。

だから施設の子どもたちも、施設で働いている人間も皆何も疑わず
健気に生きていたのであった。

また駒江のように本当にいいところを貰われていくこともあったのだが、それは
十に一つの話で、それ以外は躰が成長し、大飯ぐらいになったり、物乞いで稼げなく
なると、貰われていったという名目で闇に葬られていたのである。
 



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TAKAFUSA その10 陶晴賢 おゆうという娘(二)

まえがき


今は陶晴賢子供時代のお話となっています。兄を失い、また愛犬タキを失うという悲しみも体験しながらも、父・母に厳しくも温かく育まれ・・・また、又二郎・百乃介・与吉などの仲間にもめぐまれ、浜の網元の娘お栄にほのかなあこがれを抱く五郎、泣いたり笑ったり危機に陥ったり・・・多感な少年時代をすごしています。今日は、おゆうの悲しい物語です。


その10(二)


ところが婆様のイネが死に・・・妹、弟が生まれてくると・・・

フネは途端におゆうに冷たくなりだした。


ある時・・・フネはおゆうに一緒に神社に行こうって誘い・・・

「本当?」って、

おゆうも・・それは喜んでついていったのだが・・・


秋の夕暮れ時、

参拝の帰り、勾配のきついことで有名な高い石段を下りようとしたとき・・・

「きゃー」

おゆうは後ろから突き飛ばされ・・・転げ落ちたのである。


腕の骨を折っただけで・・・幸い死にはしなかったものの・・・

落ちた先から見えた、石段の上にたつフネの氷のような顔をおゆうは忘れることができない。


フネは金治には

「おゆうちゃん、本当にそそっかしくて・・・」

などと言っていた。


夜具に入ったフネは、

(ちくしょう!死ななかった。憎い・・・私とは違う女と金治さんの間に

・・・憎い・・・あいつさえいなければ・・・きっと・・・きっと)


おゆうは、フネがいないある時、

父親の金治に、あの時フネに突き飛ばされたかも・・・と伝えてみたが、

「そんなことはあるはずがねえ」と相手にされなかった。

しかし、それ以降、金治はそれとなくおゆうを避けるようになっていった。


おゆうは、父親の金治も自分を守ってくれるとは思えず・・・不安にかられ、

夜になると母親のお徳の温かい肌を思い出し、

「母ちゃん、母ちゃん・・・」と泣いていた。


ある晩のこと・・・


おゆうが布団にくるまっていると、何か物音が聞こえた。


耳を澄ましてみると・・・

「ポタッ、ポタッ」

何か水滴が落ちるような・・・

 

おゆうは薄目をあけて音の方を見てみると・・・

フネが・・・水がしたたりおちる濡れた手拭をもち、

二mくらい向こうに立ち、おゆうを見つめていたのである。


そのフネの目はまるで狐が憑いているようだった。

(どうしよう、殺される!)と全身が総毛立ち恐怖に震えるおゆうだったが・・・


意を決して、

ばっと飛び起き、無言でフネを必死で強く突き飛ばし・・・

部屋を飛び出していったのである。


おゆうは、それきり家に帰らなかった。


おばばは、遠くを見て思い出すかのように、そんな話をし・・・


続けて、

「・・・そして見ず知らずの私と出会い・・・おゆうはこの賑やかな

山口の町で物乞いをしていれば・・・いつか、いつか本当の母ちゃん

に会えるのではないかと思ってるんだよ・・・」


外から、冷たい風がぴゅーっと鳴る音が聞こえてきた。


爺(治右衛門)は、その話を何もいわず、ただじっと聞いていた。

その右目にはうっすら涙が滲んでいた。

 

その三か月後・・・


再び物乞い姿で山口にあらわれた五郎と爺であったが・・・

河原には、おばばの姿は見えなかった。おゆうはいたが、

何かしらフラフラしているように見えた。


五郎は、

「おゆうちゃん・・・おばばは?」と聞くと、


「先月急に風邪をこじらせて・・・死んじゃった」としくしく泣きだした。


そのおゆうも風邪なのか、相当調子が悪いらしく・・・

顔が真っ赤で・・・「ゴホゴホッ」咳き込んでいた。


五郎が額にさわってみると・・・

「ひ、ひどい・・・熱い!」

おゆうは、高熱をだしていた。


その日の晩、おゆうは倒れ・・・意識を失い・・

「母ちゃん、母ちゃん」

と布団の中で、額に汗をにじませ、うわごとを言っていた。


爺と五郎は・・・急いでおゆうを陶の屋敷の離れに運び・・・医師の竜泉をよんだ。

竜泉はおゆうを丹念に診たが・・・


部屋をでて・・・首を横に振り、

「あと三日もてば・・・」


五郎が、

「何とか、何とかならないのですか!」っと竜泉に詰め寄ったが・・・

再び悲しそうに・・・首を横にふった。


爺と五郎は・・・陶の屋敷の人間の手も借り・・・必死でおゆうの母親お徳の行方を探した。

四方八方手をまわしてみたのだが・・・


一日たっても・・・何の情報(しらせ)も得られず・・・


病床のおゆうは・・・どんどん衰弱し、意識を失い、ぐったりしていた。


二日目に、生き別れた娘を探している人間がいるという情報(しらせ)が入り、

すぐに行ってみたのだが・・・


・・・別人だった。


爺や五郎は、期待してだだけに、がっくりしたのだが・・・


その別人の女が

「あのー私と同じように・・・娘を探しているひとが・・・いつも夕刻になると

古熊神社にお参りに・・・」と。


「えっ」ということで、

すぐにそこへ行くと・・・


いた、いたのである。お徳であった。


お徳は人ずてで、娘が失踪したことを聞いたのだが・・・

その後は、とにかくあっちこっち狂ったように娘を探しまわる日々を重ねていた。

お徳の髪はほつれ・・・頬はげっそり痩せていた。


五郎が

「早く、早く、おゆうちゃん死んじゃうー」と半分泣きながら言い・・・

一行は急ぎ、屋敷に戻った。


部屋に入ると

お徳は

「おゆう!」と言い・・・近寄った。


おゆうは、しずかに眠っていた。竜泉も見守っているだけだった。


お徳が・・・おゆうの手をきつく握り・・・


「ごめんね、ごめんね、おゆう、会いたかったよ」

「おゆう、おゆうーー!」

と叫ぶが・・・・反応がない。それを何度も何度も繰り返した。


と、しばらく後に・・・

お徳が「おゆうーー」と突然大声をだした。


五郎は、どうしたのかと思った。


「おゆうが、今、私の手を、手を、にぎったのよーーー」

と、お徳が言ったとき・・・


おゆうの目がゆっくりと開いた。

そして、

「ああ、かあちゃん、かあちゃん・・・」

とつぶやき、目から涙をぽろりとこぼしたのである。


そして・・・再び静かに目を閉じ・・・おゆうは旅立った。


亡くなったおゆうの懐をあらためると・・・


おゆうが、何が書いたくしゃくしゃの紙が出てきた。


開いてみると、

そこには、汚い文字で・・・


「かあちゃん かあちゃん いま どこに


おゆうはかあちゃんのこと まいにち おもてるよ


かあちゃんも おゆうのこと おもってくれてるよね


かあちゃんにあったらね あったらね いっぱいはなすんだ


いっしょに ごはん たべて おんぶも してほしい


 それから


かあちゃん と かあちゃんと いっしょに くっつて


ねるんだ


  かあちゃん あいたい 


あいたいよ       」



お徳の泣き声が、部屋中にひびいていた。



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